うたの旅人~サルビアの花

「サルビアの花」

相澤靖子;作詞

早川義夫:作曲

 

40年ほど前のヒット曲「サルビアの花」の作詞者、相沢靖子さんはこの花の鮮烈な赤の色に別れた彼女への未練を引きずる男性の心情を重ねたという。曲をつけたのは高校時代の相澤さんの仲間でロックグループ「ジャックス」のメンバーだった早川義夫さんだった。

 

ジャックス解散後、早川さんはソロアルバム「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」を作り。その中にこの曲が収録される。

 

1971年秋、青山学院高等部の女子の学生バンド「もとまろ」(海野圭子、山田真珠美、織間千佳子)はTBSの「ヤング720」のスタッフから、番組内のフォークグループ勝ちぬき歌合戦に参加することを勧められる。4週勝ちぬいたもとまろは5週目で歌う曲がなくなった。そしてメンバーのフォークに詳しい山田真珠美さんはこの「サルビアの花」を選ぶ。そのテープがニッポン放送の深夜番組「コッキーポップ」で流れると、リクエストが殺到。そこにレコード会社が目をつけ72年にもとまろのシングル盤として発売され大ヒットとなる。

 

もともとプロになる気のなかった「もとまろ」のメンバーたち。その後マスコミに顔を出さないまま大学や短大に進学し、「もとまろ」は解散した。

 

ただ、彼女たちには心配事が残りました。曲を勝手に使われた早川さんが怒っている、とうわさで聞いていたのです。「お会いしておわびしなければ」。そんな気持ちを引きずったまま、30年が過ぎました。

結婚して松本姓となった海野圭子さんは現在、長野県にある玉村豊男さんのワイナリー「ヴィラデスト」で働いています。

東京・渋谷のライブハウスで2003年12月、松本さんはようやく、早川さんがピアノを弾きながら歌う「サルビアの花」を聞く機会を得ました。「頭をガーンと殴られたような衝撃を受けました。女子高生がうたうような曲ではなかった」

演奏後に配られたアンケートで素性を明かし、おわびを書きました。ほどなく早川さんから手紙が届きました。曲を世の中に広めてくれて、むしろ感謝していました、という旨でした。

 

「ジャックス」を解散し、一時レコード会社で働いていた早川義夫さん。前記のように「サルビアの花」収録のソロアルバムを出し。その後音楽活動を停止し、本屋を開いていた。そして20年後、94年に再デビューし再び歌い始めた。

「このまま歌わないで死んだら、焼かれた時骨とは別の魂が残るかもしれない。それは気持ち悪いから。後、大げさにいえば歌わないと自分がいつか犯罪者になってしまうんじゃないかと思って」早川義夫さんの話。

 

2010年9月の京都祇園のライブハウス「SILVER WINGS」。早川さんがピアノを弾く「サルビアの花」のイントロ、抑えきれない衝動に任せるように身震いしながら鍵盤をたたき低い声で歌う。

 

10代の女性3人の美しいコーラスで流れる「もとまろ」の「サルビアの花」が青春時代の美しさをイメージするとしたら、早川さんの歌は一歩間違えればストーカーとして社会から断罪されかねないような苦しい執着の叫びに聞こえた。

 

「サルビアの花」の作詞者相沢靖子さんは早川さんの再デビュー以後も付き合いがある。恋愛や人生の負の面も凝視するその世界をこう見る。

「『自分がどうしてこんなにダメなんだろう』とうたうときでも、その悲しがり方、悔しがり方に濁りがなく綺麗です。悲しみも憎しみも全開になるから、聴く者が普段閉じている心の扉を開かせる強さが歌にある。だからライブを終え日常生活に戻らなければいけない帰り道でつらくなる」

(以上朝日新聞「うたの旅人」の記事を参考にしました。)

早川さんの歌はNHKBS2のフォークソング特集などの番組で認識しています。ピアノの弾き語りで歌いながら強い感情移入で上体が揺れてしまう。ちょっと憑かれたような歌い方もこの曲の意外な濃さと相まって強い世界像を作り出すのですが、説得力が強く気持ちに残るのです。

 

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